建物と人 : INTERVIEW-2016.7 六角堂の料理教室(農学部50周年記念会館)
箱崎キャンパス中央図書館に隣接する林の中。木の葉を透き通らせる春の日ざしに照らされて、六角形の建物は静かにたたずんでいました。通称六角堂という名のその建物は、九州大学農学部創立50周年を記念して建てられました。普段は予約制で体に優しい自然食のお料理を出す喫茶店として営業していますが、希望者が5人集まると料理教室を開いて下さいます。この日、私はその料理教室に誘われて、初めて六角堂を訪れました。
明るい日ざしのせいか、木々に囲まれた六角堂は少し暗い印象がしました。しかし、玄関の扉を開いて中へ入ると、柔らかな光が差し込む明るい六角形のひらけた空間が優しく受け入れてくれました。壁には、窓が広く設けられており、窓から見える外の緑に包み込まれるような感覚がします。窓際には、長いソファが六角形の壁に沿って備え付けられ、その前には、六角形のテーブルと、背もたれと肘掛けのついた一人がけのソファが並んでいます。そして、部屋の奥にはカウンターがあり、六角形のイスが並んでいました。六角形の空間に六角形の家具、呼応する空間と家具の形や配置の角度が心地よさを感じさせます。
そんな空間を贅沢に利用して料理教室は始まります。料理を教えて下さる六角堂のアカネさんは、細身で落ち着いた印象の女性の方でした。六角堂で喫茶店を始めて20年になるそうです。料理教室には私の他にも5人の参加者がいました。そのうち2人は私と同じく初めての参加、残る3人は度々料理教室に参加されているようでした。料理教室は会話をしながら、和やかな雰囲気で進みます。
まず最初に教えて頂いたのは、基本のだしの取り方です。鍋に水と昆布を加えて火にかけます。昆布が浮いてきたら取り出し、沸騰させます。火をとめ、水と鰹節を加え、しばらく置いて鰹節をこすとだしが取れます。澄んだ黄金色をしただしは、昆布と鰹の優しい香りがしました。そのだしに、醤油、みりん、酒を加えると万能調味料になります。そして、だしをとった昆布と鰹節からは佃煮を作ることができます。「捨ててしまえばゴミだけど、少し手間をかけると美味しい料理になります。」管理人さんの言葉が心に響きました。
そのだしを使用して、旬のたけのこごはんを鍋で炊きこみます。鍋に洗ったお米、千切りにしたたけのこ、油揚げ、ちりめんじゃこを入れ、煮汁を加えます。煮汁は、だし、薄口醤油、酒、万能調味料で作ります。皆で煮汁の味見をしました。醤油と酒の味わいとともに、昆布と鰹の優しい香りが口に広がります。「これが煮汁の味です。覚えてください。」と管理人さん。味見が終わると、鍋に蓋をして火にかけ炊き込み始めました。
ごはんを炊き込んでいる間に、春巻きを作ります。具は梅と大和芋、カニと大和芋の2種類です。「春巻きの皮はつるつるした方を外側にすると見栄えがよくなります。」と管理人さん。皆、どちらの面がつるつるしているか確認しますが、微妙な違いに頭を悩ませます。春巻きの皮の外側を決めると、具をのせて皮を巻きます。大ぶりのもの、小ぶりのもの、人それぞれの形に巻き上がります。それを油で揚げると、カラッとした香ばしいきつね色の春巻きの完成です。
続いて、だし巻きたまごを巻きます。卵は切るようにして混ぜ、だしを加えます。フライパンを火にかけ、油をしき、卵液を流し込みます。ジュッという音が響きました。「たまごを返す時は、フライパンをスナップさせると返しやすいですよ。」たまごを返しながら、管理人さんが丁寧に解説をして下さいます。小さかったたまごは、みるみるうちに大きくなっていきます。焼きあがったたまごを巻きすで整えると、薄黄色のみずみずしいだし巻きたまごができあがりました。
そうこうしているうちに、たけのこごはんが炊き上がります。蓋をあけると、醤油の香りとともに、ほんのり茶色く色づいたツヤツヤのたけのこごはんが姿を現しました。一通り料理が完成したところで、器に盛り付けていきます。素朴な味わいの器に料理を盛り付けると、美味しさがより一層際立って見えました。六角形のテーブルを繋ぐとギザギザの形をした大きなテーブルができます。そのテーブルに料理を盛りつけた器を並べると、ほっとする素敵な食卓に。
皆で食卓を囲んで、料理を頂きました。たけのこと醤油とだしの香りが口に広がるたけのこごはん、パリッという食感とともに梅やカニの風味が現れる春巻き、だしがジュワッとしみるだし巻きたまご…。どの料理も優しい味がして、心がほっこりしました。優しい空間と優しい料理が、自然と会話を弾ませ、穏やかなひとときを生み出しているようでした。
ゆっくと静かに流れる時間。六角堂での料理教室は日々の生活の中で忘れていた丁寧に暮らすということの心地よさ、大切さを思い出させてくれました。アカネさんがいらっしゃる六角堂に、また行ってみたい。そう思いながら、家でだし巻きたまごを巻いてみる。アカネさんのようにはいかないけれど、自分で巻いただし巻きたまごに心がほっこりしました。九大箱崎キャンパスが移転を終える2年後までは、アカネさんは六角堂にいらっしゃるそうです。また足を運んでみたいと思います。
料理教室参加者
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